オペラ鑑賞のファッション術
ここでは、原則について書いたことを、いくつかの場面に応じて具体的に考えてみたいと思います。
上の原則に同意してくださるなら、それを土台にして、ご自分のワードローブからご自分の趣味で選んでいただくのが一番なのですが、状況別の服装その他について、大人ならではの、お洒落なプラスアルファのファッション術をご紹介いたします。
引き立て役の服装
ご一緒にオペラを鑑賞するパートナーの引き立て役になる大人の服装、徹底的に背景でいられるファッションとは何でしょうか。
それは、第一にパートナーのその日のファッションに合わせることです。案外とこれは難しいでしょう。可能な限り自然に、事前の会話のなかで聞き出しておく努力が必要になるかもしれません。
この場合、パートナーとは、当然、演目、主要な出演歌手、指揮者、オーケストラそして開場時間と開演時間などをお話しされるでしょう。もちろん、待ち合わせの場所と時間をきちんと決めておくことが前提です。
ご一緒なさる方がオペラにあまりなじみがないならば、大雑把な演目の内容、少なくとも、どの国の言葉で上演されるのか、どういう時代や場所の設定のオペラか程度は会話に織り込んでおくことになるはずです。
この演目に合わせた服装、これがオペラ鑑賞ファッション術の出発点です。
大人のオペラ鑑賞の服装は、基本的にダークカラーと書きました。これは、現在、タキシードまでは不要であるということを意味しています。濃紺、濃灰、黒といったご自分のスーツのなかから、シックな生地のスリーピースか6ボタンのダブルスーツを選ぶのがおすすめです。
可能であれば、そのスーツは上着がベント無し、トゥラウザースが折り返し無しのストレートのものを選んでください。
タイは薄明かりにほのかに浮かぶ程度のシャイニーな無地、シャツは上質なコットンかシルクの白、ダブルカフスに礼装用か準礼装用のカフリンクスをつけて、白のチーフをあしらうのがおしゃれです。
スタイルは普通のスーツと同じ、生地がタキシードクロスでトゥラウザースの裾がモーニングカットなら言うこと無しですが、これは仕事帰りのオペラ鑑賞には無理筋ですので、待ち合わせ場所なり劇場へ直行できる場合に考えてみるということにしておいてください。
このスーツの場合、ポケットチーフには麻のスリーピークを合わせても良いかもしれません。
そして、チョイスした服装の中に一点、鑑賞するオペラにふさわしい小物をアクセントに入れておく、これがオペラ空間における引き立て役ファッションのポイントです。
当然、鑑賞したいオペラの話をすることは、エスコートする方の服装に関するサジェストにもなりますが、それだけではありません。
たとえば、ご自分の服装を、イタリア語のオペラなら、イタリアンカラーから一色を抜き出したタイにしてみるといった工夫ができるようになります。
また、『カルメン』のように、フランス語のオペラなのに舞台がスペインであるなら、スペインブランドのチーフを合わせるとか、カフリンクスをフランスのブランドのものにすることもできますし、ワーグナー作品のように重厚なドイツ語オペラなら、チャコールグレーのスーツを選択するのもありです。
実際、ヨーロッパの歌劇場でも、イタリアオペラの上演時の客席とドイツオペラのそれとでは色彩が違います。
イタリアオペラの場合、女性はカラフルなドレスで着飾る方が多いためか、明るく見えるのに対して、ドイツオペラのときは女性でも黒っぽい服装が多いので、客席全体に落ち着いた雰囲気を感じます。